UXを向上させるライティングの基礎

はじめに

伝わったと思ったのに全く伝わらなかった。
会議に参加したけど、結局なんのための会議かわからなかった。

仕事や日常生活でそんな経験をしたことがないでしょうか。こっちはしっかり伝えたはずなのに向こうはまったく理解していなかった。逆に相手は伝えた気満々なのだけど、こっちには何一つ伝わらなかった。おそらく誰しもが一度は経験したことでしょう。

なぜ、人の言葉は正しく伝わりにくいのか。その理由はさまざまです。

例えば、お互いの前提条件や目指すべきゴールが異なっていた、などの見る視点が違っていた場合。
見るべきものの質や高さが違っていれば、当然、それぞれの答えも違ってきます。このケースは時としてクリティカルなすれ違いを生むので注意が必要です。しかし、事前に前提のすり合わせやゴールの確認などを行っていればある程度回避することは可能です。なので、もし何か話が噛み合わないなと感じたら、一度お互いの視点を確認し合うと良いでしょう。

さて、今回考えたいのは、そういった視点の違いで生まれる伝わりにくさではありません。
突然ですが、質問をします。次の2つの文章を読んで、どちらがより伝わりやすいか考えてみてください。
自社サイトにお知らせ文を投稿するためマニュアルを読んでいる、という想定です。

【例文 A】
ボタンをタップして、記事を投稿してください。

【例文 B】
記事を投稿するには、ボタンをタップしてください。

どうでしょう、AとB、どちらがより伝わりやすいと感じましたか。
おそらく、Bの方がより理解しやすかったと思います。この理由については後ほど解説していきます。
この記事では、このような具体的な例を示しながらUXを向上させるライティングの基礎について解説していきます。

文章は簡潔にする

言葉は重ねれば重ねるほど伝わりやすくなる。
このように考えている人は、少し立ち止まってもう一度考えてみてください。なぜなら、言葉を丁寧に重ねると必ずしも伝わりやすくなるとは限らないからです。それどころか、伝わらない原因になることさえあります。

基本的に文章は簡潔であればあるほど伝わりやすいです。
ところで、簡潔な文章とは一体なんなのでしょうか。

私が思う必要条件は以下の二つです。

一つは理解しやすい文章であること。
もう一つは何を伝えたいのかハッキリしていること。

ストレスなく何かを伝えたいなら、この二つをまずはしっかり身につける必要があります。

理解しやすい文章

理解しやすい文章とは、読んだときに引っ掛かりを感じさせない文章です。
逆に理解しにくい文章とは、一度立ち止まって考えないと頭に入らない文章です。
例えば、以下は難読な文章の一例です。

【例文】
私たちは持続可能な社会の実現のため、クリーンエネルギーを効果的に活用しないわけではない社会を目指す必要がある。

どうでしょう。きっとかなりの人が読みにくさを覚えたのではないかと思います(あえてわかりにくく書いたので当然なのですが)。
この例文は二重否定の文章になっています。二重否定自体はテクニックの一種なので、使い所を見極めれば人の心に残るような文章を生み出すことができます。しかし、この例文では、ただただ読みにくい文章になってしまっています。わかりやすく簡潔にするなら以下の通りになるでしょう。

【例文 修正後】
私たちは持続可能な社会の実現のため、クリーンエネルギーを効果的に活用できる社会を目指す必要がある。

せっかく書いた文章も、理解されなければ意味がありません。

何を伝えたいかハッキリしている文章

理解しやすい文章のもう一つの条件が、伝えたいことがハッキリしていることです。
以下の文章は、一見して言いたいことがハッキリしているように見えます。しかし、少し考えるとハッキリしないことだらけです。

【例文】
中古マンションの管理業務を委託したいので、できる限り早く管理会社を探したいのですが、良い条件の会社をご存知でしょうか。

どうやら中古マンションの管理業務を業者に委託したいようです。しかし、具体的にどんなことを管理して欲しいのか、できる限り早くとは具体的にどれくらいなのか、そして良い条件とはなんなのか、この文章だけではまるで判然としません。

伝える側にとっては明白なことも、聞き手にとっては未知のことです。
ライティングする上で、このことはとても重要な要素です。

「はじめに」で書いた例文Aを思い返してください。あの文章も問題点は同じです。何を伝えたいのかハッキリしていないがために、わかりにくくなっているのです。

【例文 A】
ボタンをタップして、記事を投稿してください。

本来は「記事を投稿する」という目的のためにボタンをタップするはずです。ところが、この文章ではボタンをタップすることが先に書かれているため、あたかもそちらの方が優先順位が高いように見えてしまいます。

重要なのは記事を投稿する目的であり、ボタンをタップするのはその手段でしかありません。目的があってこその手段です。お客様が何をしたいのか、どうしたいのかを考え、それを主役にしたライティングでなければなりません。何を伝えたいのかをハッキリ考えていれば、例文Bのように「記事を投稿する」という目的を頭に持ってくる構造になるはずです。

無機質な言葉ばかり使わない

冷たくあしらわれると誰だって悲しい気持ちになります。
それはWEBサービスを使っている時も同じです。例えば、WEBサイトのフォームからお問い合わせをしようとし、いざ送信を押した時、こんなエラーメッセージが出てきたらどう感じるでしょうか。

「入力内容にエラーがあります。正しい情報を入れてください」

メッセージ自体はとても真っ当であり、伝えるべきことを簡潔に伝えています。しかし、とても機械的で冷たい印象を同時に受けるのではないでしょうか。誰だってエラーを出したいわけではありません。それなのに一方的にエラーと指摘される、これはとても悲しいことです。場合によってはそのままお問い合わせすることを止めてしまうかもしれません。

では、どうすれば良いのか。
ヒントは日常での会話を思い出すことです。例えば店頭で商品の発送手続きをしている時を想像してみてください。もし何か間違った指定をした時、店員は先述したエラーメッセージのような言葉をあなたに投げかけるでしょうか。もしかしたら一部の店員は冷たくぞんざいに間違いを指摘するかもしれません。しかし、多くの店員は親切に、そしてお客様に間違いを間違っているとは指摘せず、こうすれば良いという方法を伝えているはずです。

これはNG:その期間は配送日指定ができません
これはOK:配送日の指定ができるのは2月20日以降です

WEBサービスも同じです。それがエラーであることを伝えることは必要ですが、同時に、では具体的にどうすればエラーを回避できるのか、その方法を伝える必要があります。

これはNG:不正な電話番号です。
これはOK:電話番号は11桁以内で入力してください。

こうすれば、エラーを出した人は次に何をすれば良いかすぐにわかります。

専門的な言葉は避ける

バカでもわかるように書け。
ライティングについて勉強していると、時おり上記のような、もしくはそれに似たニュアンスの言葉を見聞きすることがあります。読む人が全員馬鹿であるという前提に立って書け、と言っているように聞こえるため思わず顔をしかめたくなりますが、これは決して字句の通りに読み手をバカにしているわけではありません。これの意味するところは、すべての人の知識量が書き手と同じと思うな、という書き手に対する戒めです。

今回もフォームエラーを例に見ていきましょう。
メールアドレスの入力欄でエラーが発生した、という場面です。

これはNG:許可されていないメールアドレスです
これはOK:使用できる文字は半角英字(小文字)、数字、「-」「_」「.」「@」です

WEBに詳しい人ならメールアドレスに使用できる文字がどんなものか知っています。しかし、その知識がない人からすれば何が「許可されていないメールアドレス」なのか、まるでわかりません。許可という、一見して専門性が高くなさそうに見える言葉ですら、知識を持っていない人からすれば、とても専門性の高い言葉になってしまいます。

残念ながら、そのWEBサイトが取り扱っているサービスやターゲットによって、エラーメッセージをどこまで書くかは変わってくるので、一概にここまでやれば良いという基準を示すことはできません。大切なのはどうすればユーザーに正しく、そして良い印象を持ってもらえるかという徹底したユーザー目線の考えを徹底することです。

さいごに

ユーザー体験(UX)を向上させる施策は様々です。見た目の設計、システム、そして今回のライティング。どれか一つ欠けただけでも最高のUXは生まれません。ユーザーが最初に見るのはビジュアル、その次が文字です。そして詳細な情報は文字のみが受け持つ分野です。たとえ動画などのコンテンツであってもそれは変わりません。しゃべっている言葉のチョイスやトーンがおかしければ、良い体験には至りません。だからこそ言葉は慎重に、そして大切に扱う必要があります。

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